(あなたが好きだった) 識之助の言葉で秀子は悪夢から覚めた。 蝋燭に点いた火にふうと息を吹きかけて消すと、燭台を下に捨てた。 識之助は秀子が今まで燭台を持っていた手をさっと握りしめると、目で語りかける。「これから逃げるのだ」 が、そこへ現れたの…
やがて日は西に傾いていく。それでも姿を見せない左近に識之助は焦りを感じ始めていた。 日が落ちる頃には、実朝が入る湯殿に火がつけられる。かつての思い人が極悪を為す時が訪れるのだ。 いたたまれなくなった識之助は南の方角すなわち名越邸に向かって足…
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