畠山重忠258(作:菊池道人)

 たまりかねた重保は、
「お言葉が過ぎませぬか」
「何っ」
「ご恩を受けております鎌倉殿をかように悪し様におっしゃるのは如何なものかと」
重保にしてみれば、父から戒められていた手前、辛抱を重ねたつもりであったが、あまりの朝雅の言いぐさにやむにやまれぬ思いになっていた。若さ故に、言い方もきつい調子となっていた。
 年下の者の思わぬ反論に、朝雅は逆上する。
「口のきき方に気をつけぬか」
重保も引っ込みがつかず、
「いいえ、京都守護であり、殿上人であらせられる御方こそ、お立場をわきまえ下され。それに実朝どのは京と鎌倉との和合を願われてこそ、都からの輿入れをお望みなのではござりませぬか。それをお察し申し上げずに:」
和やかな宴が青天の霹靂ともいうように俄に険悪な雰囲気となった。
使者一行の中では、中心的な結城朝光が、
「お二方とも控えなされ」
と両者の間に割って入る。
「このようなこと外に聞かれたならば、どのようなことになるか。お考えなされ」
朝光は以前に、「二君にまみえず」と発言したことから疑いをかけられ、大きな騒動となった苦い経験がある。 朝雅も重保もその朝光が割って入ったことで我に返った。
 結局、それ以上の大事に至らず、その場は収まった。
 ただ、悪いことに、その翌日、宿所で療養していた北条政範が亡くなった。
 そのことによって、尾を引くような事態となるのだが:。

 十二月十日、坊門信清の娘は無事、鎌倉に到着し、実朝との婚礼の儀を挙げた。
 役目を終えた重保は、早速、父に先般の事の次第を報告した。
 すでに耳に入れていた重忠は一通り我が子の話を聞いた後で、
「そなたが己のことではなく、鎌倉殿への辱めに怒ったのはようわかった。主に仕える者としては、酒席でのこととはいえ、黙してはいられなかったのであろう」
抑えた調子で、さらに続ける。
「しかし、上に立つ人というものは、いらぬ誹りなど意に介さぬものなのだ。実朝どのとて、そうなるべく己を律しておられるはず。そなたは忠義のつもりでおるようだが、余計な諍いなど起こしては、却って鎌倉殿の御ためにはならぬ。今後はつまらぬ誹りなど捨て置くが良い」
重保はややうなだれながら、
「以後は慎むように致します」
と答えた。
 「吾妻鏡」などには、朝雅と重保との口論の具体的内容には触れていない。
 しかし:。 (続く)


作:菊池道人 http://www5e.biglobe.ne.jp/~manabi/3.htm

本作はオリーブニュース http://www.olivenews.net/v3/ にも掲載しております。

本作を初めてご覧になられる方はこちらをhttp://historynovel.hatenablog.com/archive/2014

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