畠山重忠259(作:菊池道人)

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同じ出来事でも、立場や感情によっては、全く別の受け止め方となる。
名越の北条邸では、重保と平賀朝雅と重保との一件を聞いた牧の方が夫の時政に、
「あの畠山の倅が:。親も親ですが」
「今回の件は重忠どのは関係ないではないか」
理由もなく重忠を嫌うこの妻には、時政もまたかという思いであるが、件の口論の翌日に、牧が産んだ子である政範が亡くなっている。そこへお気に入りの婿である朝雅の件が聞こえてきた。
 牧の不機嫌は頂点に達していた。
「大体、実朝どのの我が儘が原因なのです」
「これ、言葉に気をつけよ」
時政が叱りつけるが、牧は目に涙を浮かべながら、
「いいえ、ご内室は都から迎えるということにならなければ、政範が無理な長旅などして、病に倒れるようなことはなかったはずです。あの御方は何でも都風を好まれておられますが、武家の棟梁としての気構えを忘れてはいないか:。朝雅どのの言う通りではありませぬか」
確かに、実朝が武芸などには余り熱心ではないことには思い当たる節もあり、時政もいずれ諫言すべきかとは思っていた。
「わしから実朝どのに折を見て申し上げる」
その場を何とか収めようとしている時政であるが、牧は、
「そもそも、征夷大将軍というものは、帝に成り代わり、朝敵を成敗するのがお役目。最も武勇に長けた方がその任に就かれることが筋ではございませぬか」
「その通りじゃが」
時政は面倒くさそうに同調する。
「今、それにふさわしい御方といえば、先頃、伊勢で平家の残党を鎮圧された朝雅どのではございませぬか」
「口を慎まぬか。今の将軍家は実朝どのであるぞ」
時政は声を荒げる。牧は一つため息をつくと、
「朝雅どのも清和源氏。それに時政どのは朝雅どのの舅であることもお忘れなく」
そう言い置くと、そそくさと退出した。
「ふん。くだらぬことを:」
時政は表面は呆れたようであるが、牧の話には引っかかるものを感じていた。

数日後、時政は牧の実兄である大岡時親を名越邸に呼び寄せた。
 雑談風に先日の牧の話を耳に入れ、
「何ともたわけた話だが」
が、時親はたわけた話では終わらせたくない時政の本心を察している。
「しかし、朝雅どのが清和源氏の血筋であり、時政どのがその朝雅どのの舅であるということは紛れもない事実でありますな」
時政の期待していた通りの時親の反応である。大変利口である上に、弁も立つ。
しかも、頼盛の家人であったことから、都にも人脈を持つ。
 朝雅とも親しい。
「朝雅どのにそのご意志があるか否か次第でありますな」
仮に朝雅が将軍となれば、実朝の生母である政子の発言力は低下し、その分だけ自分と牧の方の政権への影響力が増す。娘である政子の政権内での態度も居丈高で鼻につくように感じてきてもいる時政の胸の鼓動は時親の言葉で高鳴った。
慎重なようで、時と場合によっては、大博打に出ることがある。
 三浦義澄が重忠に言っていたような時政の性格がまたしても、表に出ようとしていた。
「それでは早速、都に上ることに致しましょうか」
時親の申し出は、時政の意に叶うものである。
 その三日後、時親は旅立つ。
 親しい者たちには、病気療養のために故郷の大岡牧に帰る、と言い置いてである。
(続く)

作:菊池道人 http://www5e.biglobe.ne.jp/~manabi/3.htm

本作はオリーブニュース http://www.olivenews.net/v3/ にも掲載しております。

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