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畠山重忠262(作:菊池道人)

が、一度は背を向けた静遍は左近を振り返ると、
「この琵琶を持っていかれぬか」
「はい」
 子供のように素直に左近は答えた。
 「これも何かの縁」
と静遍が言いながら手渡す。
 左近は母の形見を抱きしめるように受け取った。
「ところで、今、拙僧を訪ねて来たのは大岡時親。実は平家が都落ちした後に貴殿の腹違いの妹は鎌倉へ下り、北条どのに仕えるようになったが、その世話をした牧宗親の子息です。妹御の消息など聞けるやもしれぬが」
「いえ、それには:」
「そうか。今更、詮無いことでもありますからな。では、これにて:」
静遍は再び、背を向けた。
 が、抱えた琵琶の重さは血のつながりという縁がさほどには軽くはない、ということに気づかせた。
「もし:」
左近は静遍の背中に声をかける。

父が平家の家人であった関係上、時親は頼盛の遺族とのつながりを保っていた。
「お久しうござる」
先ずは頼盛の子である静遍に丁重に挨拶する。
 静遍は
「平賀どののお屋敷には行かれたか」
「生憎お留守でございました。笠懸の御指南に院参されておられるとか」
そう答えながら上目使いの瞳が油断なく動く時親に、部屋の片隅に座している左近は抜け目なさを感じ取っている。
「時親どの、こちらは以前にご貴殿のお父上が世話した秀子という雑仕女の腹違いの兄じゃ。左近どのという」
「おお、これは」
時親は目を大きくする。
左近も挨拶した後で、
「妹は息災にござりますか」
時親は笑顔を見せながら、
「つつがなく暮らしておる。北条の奥方にもえらく気に入られてのう」
時親はそれ以上は触れずに、話相手を静遍に戻す。
「先だっての平家残党追討の折りには、色々とお世話になり」
伊勢での平家の反乱に際しては、仁和寺では調伏の祈祷が行われている。
「拙僧などは何も致さずに」
「いや、これも御仏のご加護と時政どのも感謝されておりましたので、座主どのにも御挨拶申し上げなければと参上致した次第でござる」
 淀みなく話す時親である。左近はこれ以上の長居は無用と、
「それでは、これにて」
「左近とやら。もし妹御に会いたければ、鎌倉にこの時親を訪ねるがよい」
「かたじけない」
左近は一礼して、退出した。
 その後で時親は、
「今後も色々とお力添え頂かねばなりませぬし」
「また、逆賊調伏の件で」
静遍はやや緊張した面持ちになる。時親は静遍の表情から、いきなり話の核心に触れるのは憚りがある、と判断し、
「いえ、それのみならず、一度、門跡どののご尊顔を:」
尚、この元久元年(1204)十二月の時点では、仁和寺の門跡は後白河法皇の皇子でもある道法法親王である。 (続く)


作:菊池道人 http://www5e.biglobe.ne.jp/~manabi/3.htm

本作はオリーブニュース http://www.olivenews.net/v3/ にも掲載しております。

本作を初めてご覧になられる方はこちらをhttp://historynovel.hatenablog.com/archive/2014

 

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