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畠山重忠267(作:菊池道人)

 時政は密かに三浦義村を自邸に呼び、二人きりでの会談の席を設けた。
 珍しいことである。
 義村は義時とは世代的にも近いこともあり、酒を酌み交わしながら語り合うことがよくあったが、その父からわざわざ呼ばれるということはあまりなかった。
 一体、どういうつもりなのか、とその意を探り兼ねている義村に時政は、
「こうして貴殿を見ていると、義明どののことを思い出すのう。どこか面影が似ておられる」
頼朝挙兵時にその命を散らした義村の祖父の話を持ち出した。そして、どうやらその話を続けたいようである。「誠に惜しい方であったが、貴殿らもよう耐え難き事を耐え忍んだものよのう」
「いえ、これとても、大義ゆえでござる」
「なる程のう」
時政は深くうなずくと、
「しかし、頼朝公も義澄どのももはやこの世にはいらっしゃらぬ」
時の流れへの感慨なのか、それとも別の意図があってのことなのか。
 しばしの沈黙の後に、
「あの頃とは、いささか事情も異なってきているが」
ほろ酔い加減の目をぎらりとさせながら、時政は身を乗り出してくる。
「貴殿もわしも流人時代からの頼朝公を支えてきた。しかし、そうした者ばかりではない。今は頼朝公もいらっしゃらず、実朝公はまだお若い。それゆえ、災いのもとは摘んで置かねばなるまい」
「災いのもととは?」
「謀反の噂あるは武士の誉れなどと言い放つような者をこの相模と北隣にそのままにしておくのは如何なものかのう」
「畠山どののことでござるか」
驚いた表情の義村に時政は無言でうなずいてみせた。
父義澄にも諭され、義村は私情を捨てた。しかし、幼少の頃から可愛がってもらった祖父を死に至らしめた恨みは消えたわけではない。
 重忠を賞賛する声を聞く度に、怨恨が蘇り、悶えるような怒りを懸命に抑えてきたことも事実であった。
「義村どの。わしは昔の話を蒸し返すのが目的ではないぞ。今、必要なのは御家人たちの結束なのじゃ。いざという時には、相模のみならず武蔵の兵たちも鎌倉殿の手足とせねばならぬのだ。それゆえに武蔵の者たちにはこの時政に対して二心を抱くべからずとの誓いをさせたのじゃ」
時政が言う鎌倉殿のために御家人の結束をとは飽くまでも建前で、本心は北条家の勢力拡大であることは義村自身も策謀家肌であるだけに重々承知している。しかし、時政の野心を利用すれば積年の恨みを晴らすことも可能なのである。
「なるべく速やかなるがよろしいかと」
義村も次第に乗って来た。
「まあ、そう焦ることもないが、この話は時期が来るまでは義時には知らせぬ方が良い」
義村も義時が重忠と親しいことを知っているので、
「承知しました」
その返事のきっぱりとした感じに時政は手応えを感じた。

辞去しようとする義村とともに門の近くまで来た時政は外出先から戻って来た牧に会うなり、
「そなたと同じような志の者が一人増えたぞ」
理由もなく重忠の悪口を言う妻を時政はうっとおしく思っていたが、今度はそれを利用し、義村の背中を押そうとしている。
牧は喜々とした表情を義村に向けると、
「あの者の話が出ると、本当に気分が悪くなります」
義村が長年、心の奥底に縛りつけていたいた怨念は、今や解き放たれた。 (続く)

作:菊池道人 http://www5e.biglobe.ne.jp/~manabi/3.htm

本作はオリーブニュース http://www.olivenews.net/v3/ にも掲載しております。

本作を初めてご覧になられる方はこちらをhttp://historynovel.hatenablog.com/archive/2014

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