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畠山重忠281(作:菊池道人)

 黄昏の六角東洞院
 識之助は平賀朝雅邸に鋭い視線を注いでいる。日が暮れ切ったところで、邸内に忍び込み、この館の主を討つ。 そう意を固めていた。
 先の三日平氏の乱では、朝雅の軍勢に長滞陣ゆえの気の緩みが感じられたので、奇襲を建言するも却下された。結果的には、平家残党による反乱軍は鎮圧され、識之助は辛くも戦場を脱したのであったが、もし自分の策を用いてくれたならばという悔しさは如何ともし難い。
(こうなったのなら、生き延びた俺が朝雅を不意討ちにすれば良いのだ)
識之助は乾坤一擲の勝負に出ていた。
人通りもすっかり途絶えている。
(先ずは塀を乗り越えて)
と、その時である。
 背後からぐっと肩をつかむ者が:。平賀の郎党にでも気づかれたか、と一瞬思い、血の気が引くようであったが、
「待たぬか」
という聞き覚えのある声。
「師匠」
「やる前に俺の話を聞け」
袂を分かったのに何を今更、と識之助は思ったが、ここで言い争っていては感づかれる恐れがある。
識之助は左近の言う通りにせざるを得なかった。

 鴨川の畔まで来ると左近は、
「おぬしならそうするだろうと思っていた。朝雅を敵とするということでは俺も同じだ。しかし、今、殺す訳にはいかぬ」
「どういうことだ」
「あ奴の悪行を暴き切ってからにしたいのだ」
まだ合点がいかぬような表情の識之助だが、左近は、
「実は近々、院の達てのご発願により三条白河に寺が建立されるそうだ。最勝四天王院と名づけるとか:」
左近は静遍から密かに教えられた話を始める。
「どうもそれは調伏のためらしい」
「誰をだ」
「鎌倉の実朝公だ」
「それと朝雅とどういう関係があるのだ」
「朝雅を将軍とするつもりらしい」
「何?」
識之助もようやく関心を持ち始めたようだ。
「院も朝雅を大変お気に入りのご様子。鎌倉では北条が色々と動いているようだ。それが証拠に、去年の暮れから大岡時親が頻りと仁和寺や公卿の屋敷へ出入りしておった。かなり込み入った話のようだ。それに、おぬしも聞いていようが、重忠が殺された。これとも関係があるようだ。ここで朝雅を殺してしまったのでは、真相は闇に葬られてしまう。どうせならば、一人でも多く、関わった輩を道連れにしてやろうではないか」
 識之助は深くうなずいたが、
「師匠は源氏だの平家だのと張り合うことも政をどうこうするとかにも気が乗らぬと言われたではないか。それを今になって:」
「無論、誰が政を意のままにしようが俺の知ったことではない。しかし、知らぬ間柄ではなかった重忠がああいう死に方をしたというのであれば黙っている訳にはいかぬ。理不尽をそのままにして良いはずがない」
「師匠、それならば俺は:」
 乗り気になってきた識之助に、
「先ずは鎌倉へ行き、北条時政が何をするつもりか探るのだ。時政邸ならおぬしも知っていよう。俺もここでの役目を終えたら、直ちに駆けつける。おぬしは鎌倉に着いてから二日後の午の刻頃に鶴岡八幡の鳥居前に来てくれ。それまでの話によってどうするかを考える」
「承知した」
識之助は夜にもかかわらず、走り出した。
それを見送った左近は星空に向かって、合掌する。
(重忠よ、俺はおぬしの仇を討つぞ) (続く)

作:菊池道人 http://www5e.biglobe.ne.jp/~manabi/3.htm

本作はオリーブニュース http://www.olivenews.net/v3/ にも掲載しております。

本作を初めてご覧になられる方はこちらをhttp://historynovel.hatenablog.com/archive/2014

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