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畠山重忠264(作:菊池道人)

 翌日も続けられた笠懸を終え、汗をぬぐいながら、後鳥羽上皇は、
「どうじゃ、京と鎌倉とその方にはどちらが良いかのう」
子供じみた二者択一の質問ではあるが、朝雅にはこれからも長く京に居て欲しいというようにもとれた。
そして、近頃、近臣たちが声を潜めてささやく話を思い出した。上皇が鎌倉討伐を考えているらしいということを:。
 朝雅はついにその話が来たな、と思い、さっと緊張したが、徐に、
「それがしはいずれ鎌倉に戻りたいと願っている次第であります」
「ほう」
上皇は回答の不本意さを隠すように、わざと微笑を浮かべてみせるが、朝雅は、
「しかしながら、もしそれがしが戻ることとなれば、鎌倉はこれまでとは違ったものとなるかと思います」
「それはどういうことじゃ」
上皇様の御意のままになる鎌倉でございます」
少し怪訝な表情をし、沈黙する上皇であるが、朝雅はもうひと押しとばかりに、
「それがしが鎌倉を上皇様の御意に叶うように致します」
「何という戯れを申すか。そなた一人で:」
「いえ、それがしが将軍ともなれば」
きっぱりとした口調の朝雅である。いつか上皇が冗談めかして言ったことを本気で言っている。
「朝雅、その方、実朝がいることをよもや忘れたわけではあるまいな」
「いえ、それがしを将軍にと望む者もおります。例えば、我が舅、北条時政など:」
上皇は大きくうなずいた。
 そして全てを察した。すでに修禅寺に幽閉された頼家が殺されている。北条の手の者によるとも聞いている。それくらいのことをやってのける時政ならば、実朝に対しても、とうことはあり得ぬことではない、と思った。 源氏の将軍家をさしおいて、鎌倉での実権を思いのままにしようとしている北条については上皇も十分認識している。
 それを利用しない手はない。
上皇は身を乗り出し、にんまりと笑みを浮かべながら、朝雅の肩に手をかけると、
「そなたを将軍にと望む者ばかりではない、ということをよもや忘れるではないぞ」
朝雅は上皇の瞳に輝きを感じた。

六角東洞院の邸宅に戻ると、滞在中の時親に上皇とのやりとりを知らせた。
「依然として実朝どのに忠義立てをする者も多いでしょうな」
時親の言葉に、その例として、真っ先に朝雅の頭に浮かんだのは、重保のことである。
酒席で実朝を批判したときの怒り様から、実朝擁護の急先鋒となることは間違いない。まして、その背後には父である重忠がいるとなれば:。
「時政どのはこのところ武蔵のことを気にされているような:」
時親の言葉は朝雅の意と合致する。
 朝雅は、
「早速、時政どのに書状をしたためよう。いや、あの御仁は腰の重いところがあるからな。それよりも、武蔵の件に関しては:」
「我が妹なれば」
時親がにんまりと笑みを浮かて応じると、朝雅も深々とうなずいた。 (続く)

作:菊池道人 http://www5e.biglobe.ne.jp/~manabi/3.htm

本作はオリーブニュース http://www.olivenews.net/v3/ にも掲載しております。

本作を初めてご覧になられる方はこちらをhttp://historynovel.hatenablog.com/archive/2014

 

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